借景 & 背景
更新日:2月28日
【借景とは】
借景とは大まかに言えば、庭園外の風景を庭の景色として取り入れること。また取り入れた景色のこと。厳密な定義は人によりさまざまで、具体的にどの庭園のどの景色を借景とみなすかも人によります。借景としてよく取り上げられるのは円通寺から見た比叡山や無鄰菴から見た東山などです。
【借景の事例】
[室町時代まで]
天龍寺庭園
視点場:書院
対象:嵐山
水平距離:約0.9km[3]
仰角:約20度[3]
・20度という仰角は有名庭園の借景の中では特に高いもの。
写真は書院からのものではありませんが、それに近い場所からのものです。
・単なる風景ではなく、嵐山を聖山に見立てて拝むものだという意見もあります。
[江戸時代]
円通寺庭園
視点場:客殿
対象:比叡山
水平距離:約5.4km[3]
仰角:約7.5度[3]
・借景の研究によく使われる庭園です。
・生垣が比叡山を切り取るフレームになっているなど、借景が設計に組み込まれている感じがあります。
・遠近感がうやむやになることで、比叡山が絵のように見えます。借景対象が園内とは別のものと意識されるタイプの借景です。
修学院離宮庭園
視点場:隣雲亭
対象:十三石山などの山並み
水平距離:約8km (十三石山まで)[2]
仰角:2.5度[3]
・広がりを感じる借景です。
岡山後楽園
視点場:延養亭
対象:操山
水平距離:約2㎞[1]
仰角:約4度[1]
頼久寺庭園
視点場:書院
対象:愛宕山
水平距離:1.4km[3]
仰角:13.4度[3]
玄宮園
視点場:武蔵野 (池の北の開けた場所)
対象:彦根城天守
水平距離:約300m (Googleマップによる)
仰角:約15度[1]
栗林荘 (栗林公園)
視点場:飛来峰
対象:紫雲山
水平距離:約630m (Googleマップによる)
仰角:約15度 (スマホによる簡易測量)
・紫雲山も名目上は栗林公園であって外部ではないのと、庭園と山が密着していて中間部分が無いので、借景なのかどうか意見が分かれるところ。
借景と呼ぶかどうかはともかく、山を意識して設計しているとは思われます。というのも、山を正面に見るような視点がいくつもあるからです。
養翠園
視点場:養翠亭
対象:天神山
水平距離:約850m (Googleマップによる)
仰角:約6度 (計算による)
・天神山には紀州天満宮、その向こうには紀州東照宮があるので、それらを拝む意味があったのかもしれません。
仙巌園
視点場:御殿
対象:桜島
水平距離:約8km[1]
仰角:約7.5度[1]
偕楽園
視点場:好文亭
対象:千波湖
水平距離:約1.5km[1]
仰角:約-1度[1]
・江戸時代までの庭園では比較的珍しい、見下ろすタイプの借景です。
[明治、大正]
無鄰菴庭園
視点場:書院
対象:東山
水平距離:約1.5km[3]
仰角:約10度[3]
・庭園と借景対象がつながって見えるタイプの借景。施主の山縣有朋自身が語っていることですが、この庭園は東山から小川が流れてくるイメージで造られています。
福寿会館庭園
視点場:?
対象:福山城天守
水平距離:?
仰角:?
依水園
視点場:書院
対象:若草山
水平距離:約2.6㎞[3]
仰角:約8.6度[3]
披雲閣庭園
視点場:波の間
対象:着見櫓
水平距離:?
仰角:?
[現代(昭和以降)]
大仙公園日本庭園
視点場:傘亭
対象:大仙公園平和塔
水平距離:約250m (Googleマップによる)
仰角:?
足立美術館庭園
視点場:?
対象:滝
水平距離:?
仰角:?
・庭園で有名になってしまいましたが、足立美術館は本来 横山大観のコレクションを中心とした美術館。写真に写っている滝は、大観の世界に近づけるための人工滝です。
本楽寺庭園
視点場:本堂
対象:吉野川、阿讃山脈
水平距離:290m (川の対岸まで。Googleマップによる)
仰角:-4.5度 (計算による)
・比較的珍しい、見下ろす借景です。
北川村モネの庭マルモッタン「ボルディゲラの庭」
視点場:?
対象:太平洋など
水平距離:約3km (太平洋まで最短。Googleマップによる)
仰角:?
・公式サイトには「日本庭園の要素も盛り込み、海や山の佇まいも借景として」とあります。
【借景のバリエーション】
・山を借景とする例が有名ですが、山以外に建築、池や川が借景とされることもあります。研究者によっては雲や空も借景に含めています。
・庭園と園外の風景とは自然につながることもあり、明確に別物と意識されることもあります。無鄰菴庭園は自然につながる例、円通寺庭園は明確に区別される例です。
・借景の効果や印象も様々です。庭を広く錯覚させるもののほか、庭園内に無い何かを補足するもの、庭園と対比的な効果を上げるものなどがあり得ます。
【拡大解釈された「借景」】
専門用語としての「借景」は造園技法の1つで設計に組み込まれているものを言いますが、専門外ではそれ以外も「借景」と呼ばれています。リンク先の記事では汐留のビル群を旧浜離宮恩賜庭園の借景と呼んでいますが、もちろん、このビル群は庭より後にできたものです。
ただしこの記事でも外の景色を何でもかんでも借景と呼んでいるわけではありません。
垂直と水平の対比や現代と伝統の対比など「この組み合わせに価値がある」点に注目しているようです。
【参考文献】
[1]進士五十八 「「借 景」 に 関 す る 研 究」 (1986)
[2]周宏俊ほか「日本の造園における借景という用語の性格と変遷」(2012)
[3]周宏俊「借景の展開と構成 : 日本・中国造園における比較研究」 (2014)
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