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桂離宮庭園の藪と林

  • 執筆者の写真: Masahiko Yano
    Masahiko Yano
  • 7月19日
  • 読了時間: 4分

更新日:7月20日

【はじめに】

桂離宮を参観して、意外だったことがあります。

「案外、ただの林の部分があるな」ということです。

例えば松琴亭から賞花亭へいたる途中の路沿い。


もちろん本当はただの林ではないのでしょう。ですが一見自然風で、見どころとも思われていない場所です。

解説書や訪問記にあまり登場せず、案内の職員も多くを語りません。

今回はそんな桂離宮の藪について個人的に書きます


【事前に知っていた桂離宮:人工物と技巧】

まず筆者が事前に思っていたイメージについて軽く触れておきましょう。

イメージの元は解説書の写真やクチコミ、ブログなどです。


■松琴亭周辺

・いかにももっともらしい日本庭園。

・茶屋、石橋、灯篭、仕立て松

・どうやらこの辺がハイライトらしい。

松琴亭周辺
松琴亭周辺

■住吉の松周辺

・すごく人工的、技巧的。

・むしろ不自然なのでは?現地でどう見えるのか確認したい。

住吉の松
住吉の松

■真の飛び石

・すごく綺麗。一目惚れ。

・ぜひ現地で直接見たい。

真の飛び石
真の飛び石

このように、事前に筆者が知っていたのはハイライト部分と、人工物や技巧的な部分でした。

解説書等では「写真映えのする場所」「うんちくを言うべき場所」が優先されるので、当然と言えるでしょう。


【現地で感じた桂離宮:意外と山と林】

ではここから本題。現地で感じたことを書きましょう。

木が混んで視界が狭い部分が意外にたくさんあります。写真は「螢谷」と呼ばれる場所。木の形も人工的ではなく、山の木のように見せています。

螢谷
螢谷

螢谷から順路に従って進むと盛土の山を登ります。

むき出しの地面と木の根。

…コケではないのですね。

盛土の山
盛土の山

山の頂上には峠の茶屋のような何か

峠の茶屋
峠の茶屋

周囲は樹木が密に茂り、窓越しに見ると自分が山にいるように錯覚します。


とまぁ、現地を訪問して感じたことの1つは「意外とただの林(あるいは藪)があるなぁ」ということでした。


【後で調べた桂離宮:古図にもある「藪」】

この藪の事はその後も頭のどこかに引っかかっていました。


それから数年後の2025年、桂離宮の古図を見ていた筆者は「藪」の文字を見つけます。


松琴亭(画面左端)と桂川(画面外右)の間に書かれているのは

竹林亭御藪 長九拾間 幅平均拾五間

の文字。いわゆる桂垣のある場所で、長さも桂垣に近いものです。

竹林亭御藪
竹林亭御藪

また現在で言う参観者受付の近くにも「栗林御藪」「藪」「ヤブ」の文字があります。

栗林御藪
栗林御藪

このように、桂離宮の「藪」は江戸時代にも存在し、「ここに藪があった」と絵図にも書かれるものでした。


【桂離宮の藪と林:その意味】

庭園内に「藪」がある意味を考えてみましょう。

それは山の表現ではないかと考えています。

参観当時の筆者は知らなかったことですが、庭の世界では山のモチーフは珍しくありません。古くは『作庭記』にも「又ひとへに山里などのやうに、おもしろくせんとおもハバ」とあり、庭の方向性の1つとして「山里風」があったことが分かります。


江戸時代で言えば六義園が山里に見立てられ、柳沢信鴻(やなぎさわ のぶとき:吉保の孫)は園内の藪で山菜取りなどを楽しんだことが日記に記されています。


桂離宮の場合、竹林亭御藪については藪内に茶屋があったことが明らかです。親王は藪に囲まれた茶屋でひと時を過ごし、「山」の気分を満喫したのでしょう。そのためにただの藪ではなく「御藪」なのだと思われます。

「栗林御藪」についても、親王が藪に入って何かをしたのでしょう。

ただしその詳細は不明です。


【おわりに】

桂離宮は繊細緻密というイメージで語られることがあります。

筆者も参観以前は「こんなに造り込みがすごい」という情報に接していましたし、人工物や技巧に注目していました。


ですが現地に行くと案外、普通の林や藪(に見えるもの)があります。

それをどう受け取るかは人それぞれです。普通の林や藪には価値がないと思う人もいるでしょう。

筆者は発見があると思いました。


桂離宮も含め池泉回遊式庭園には、見どころではない場所が多くあります。

それはその庭園が見るためのものではなく、そこで時を過ごすためのものだからかもしれません。

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