粉河寺庭園は美と土木の交わるところ
更新日:4月7日
【前説】
粉河寺 (こかわでら) 庭園は異色の「庭園」です。
普通お寺の庭園と言えば方丈前や書院前にあるものが思い浮かびますが、この庭園は本堂前の石段の両翼にあります。幅50mに対して奥行きは3mしかなく、高さは約3mです。大石をぎっしりと詰め込み、残った隙間にツツジ、マツ、ソテツをねじ込んだような姿をしています。
なぜこの場所にあってこのような姿をしているのでしょうか。
【粉河寺庭園はなぜこうなのか考えてみる】
粉河寺庭園はなぜこのようになっているのか考えてみましょう。
粉河寺があるのは山裾の傾斜地です。本堂などを建てるために平らな場所を造ると、どこかに段差ができます。粉河寺ではこの段差を2カ所、中門の直前と本堂の10mほど前に持ってきました。本堂直前にせず10m離したのは本堂前にスペースがほしいからです。
この段差部分の土留めは本堂前にあって目立つものです。そこで見た目にも凝ったものにしようというのが粉河寺「庭園」の始まりではないでしょうか。50m × 3m× 3m という形状は段差の規模から決まったのだと思われます。石が高密度であるのはもともとが段差の土留めだからで、そこに植物を足そうとするとねじ込んだ感じになったでしょう。
「この庭園は個性が強いな」「どうしてこのデザインになったんだろうな」と考えた時、施主の事情や土地の事情が関わっていることは時々あります。庭園というのは庭園デザイナーがゼロから造るものではないのです。
【石組をもう少し詳しく見てみる】
石組をもう少し見てみましょう。まずは参道を通って本堂へ向かう自然な目線で見てみます。
本堂の方を見るとその手前に「庭園」があり、本堂の前景になっていることが分かります。
もう少し寄ってみましょう。
向かって左側にはとび抜けた大石や極端に縦長の石、傾いた石などがあります。石の主張が激しいところです。
左側にくらべると右の方はおとなしい感じがします。
その理由について確実なことは分かりませんが、訪問者が左から来ること、石組の左部分を前景にして本堂を見ることと関係があるのかもしれません。
【まとめ】
粉河寺庭園はかなり異色です。その根本原因は、この「庭園」の本質が段差部分の土留めだからではないかと思います。
造成と配置の都合でこの場所にこの形の段差がある、ということがベースにあり、そこに土留めのために高密度に石を配置することからこのデザインが生まれました。
評論家はこの大量の石を「土留めを兼ねた石組」と表現しますが、造る側にとっては土留めの方が先に来るはずです。そのような意味でこの庭園は土木がベースにあり、そこに美を添えようしたものだと思いました。
【補足:粉河寺について】
粉河寺の庭園以外の部分についても簡単に触れておきましょう。
粉河寺は『枕草子』や『梁塵秘抄』にも名前が登場する古刹で、西国三十三所の観音霊場の1つです。鎌倉時代には寺領が4万石、子院が550もあり、多数の僧兵をかかえ、大きな力を持っていました。現在でも、門前町があること、境内が広いこと、建築が立派であることなどに大寺院らしさを見ることができます。ちなみに建物は本堂、中門など4棟が重用文化財に指定されています。
【基本情報】
施設の性格: 仏教寺院
庭の性格: 段差部分の修景、本堂の前景
作庭年代: 桃山時代~江戸時代初期 (手法による推定)
アクセス:JR和歌山線粉河駅下車 徒歩15分
和歌山駅から粉河駅までは電車で30分余り。電車は大体1時間に1本出ています。
粉河駅からは一本道で、「粉河寺 ○○m」という標識もあるので迷うことはないでしょう。
公開状況:公開 (志納)
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