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臥龍山荘 不老庵と煎茶趣味

更新日:3月18日

【はじめに】

「茶室(数寄屋)は抹茶を嗜むための空間だ」と考える人は多いと思います。ところが明治時代に造られた数寄屋には茶の湯の型にはまらないものが多くあるそうです。

愛媛県大洲市にある「臥龍山荘」の不老庵もそのような数寄屋の1つ。


「不老庵は、肱川を見下ろす崖地に懸造で張り出す、特異な造形になる茅葺の小庵である」

国指定文化財等データベース


なぜこのような「らしくない」茶室が生まれたのかを考えるとき、煎茶趣味の影響だと考えれば納得がいくかもしれません。

今回は煎茶趣味にも注目しながら、臥龍山荘を紹介します。


【臥龍山荘とは】

まず臥龍山荘について簡単に説明しましょう。

臥龍山荘は明治時代に大洲出身の貿易商が建てた別荘。庭園は名勝、建物は重要文化財に指定されています。

川を見下ろす崖に張り付くように、南北に細長い敷地を設け、北端には母屋である臥龍院、南端には離れの茶室である不老庵(重文)が建っています。この不老庵が、煎茶趣味の影響を考えるとき興味深い事例です。


【不老庵】

では不老庵はどのような建物か見ていきましょう。

不老庵は川(肱川)西岸の急斜面に建てられた懸造りの建物、約4m×5mの小さな庵です。先述の通り敷地の南端にあり、建物北側にある縁側から部屋に入ります。

内部は8畳の一室で西側に床の間、東と南は開放して障子を立て縁側と高欄をめぐらしています。大きな開口部から肱川に向かって眺望が開けていますが、これは一般的な茶室のイメージとは異なる点です。

不老庵
不老庵(筆者撮影)

また網代による天井は舟をイメージしたとも言われる曲面で、これも特異な点です。

不老庵の網代天井
不老庵の網代天井(写真提供:いよ観ネット)


【煎茶道との融合?】

このような不老庵の特徴について、煎茶道から考えると納得がいくかもしれません。

煎茶道とは江戸時代後期から明治時代にかけて盛んだった「もう1つの茶道」。茶の湯(抹茶の茶道)が抹茶を使うのに対し、煎茶道では急須で煎茶を淹れます。

煎茶道には「随所に茶を煮る」という言葉があり、茶室の形式にはこだわりません。景色の良い場所に開放的な茶室を立てることや眺望のために懸造りにすることもあり、不老庵の特徴と一致します。


例:玄宮楽々園 楽々の間、中津万象園 観潮楼など

煎茶室の例 :玄宮楽々園 楽々の間
煎茶室の例 :玄宮楽々園 楽々の間

臥龍山荘が造られた明治時代には抹茶道と煎茶道の人気が拮抗し、煎茶道が抹茶道に影響を及ぼすこともありました。抹茶道に立礼(りゅうれい:椅子とテーブルでの作法)が取り入れられたのは煎茶道の影響とする説があります。


【与楽亭】

話を臥龍山荘に戻しましょう。

山荘にはもう1つ、煎茶道に関係する場所がありました。川の中島(蓬莱山)にかつて存在した茶室「与楽亭」です。

不老庵の建つ斜面から20mほど東の川の中に岩だらけの小島があり、蓬莱山と呼ばれています。この島は臥龍山荘庭園の一部で、「藤雲橋」という橋で山荘とつながっていました。島の最高点付近には丸窓のついた茶室があったことが、大正5年の屏風絵からわかります。

絵のタイトルが「与楽亭煎茗」であり、煎茗が煎茶のことですから、この茶室は煎茶のための茶室であると考えられます。ちなみに茗(めい、みょう)とは遅く摘んだ茶葉のことです。


【まとめ】

-「変わった茶室」くらいに思われていた不老庵は、煎茶室の造りが混ざっていると考えると理解できる。

-明治時代には茶の湯(抹茶道)と煎茶道が拮抗し、両者がまじりあうこともあった。


【おまけ:不老庵を見るには】

おまけで、不老庵がよく見える場所を紹介します。

・蓬莱島(山)

川の中島「蓬莱山」の突端にある東屋からは50mほどの距離で不老庵を眺めることができます。見る角度は固定です。

蓬莱山から見た不老庵
蓬莱山から見た不老庵(筆者撮影)

・対岸

-肱川東岸の如法寺河原や川沿いの道路からも不老庵を見ることができます。距離は遠く(150m~250m)なりますが、移動することで見る角度を選ぶことができます。

如法寺河原から見た不老庵
如法寺河原から見た不老庵(筆者撮影)

・川舟

肱川では観光客向けに屋形船が運航されています。季節限定で臥龍山荘前まで行くコースもあります。急角度で見上げることになります。


【Learn More】

愛媛県大洲市、矢ヶ崎善太郎『水郷の数寄屋―臥龍山荘』エス・ピー・シー (2012)

尼﨑博正ほか『庭と建築の煎茶文化―近代数寄空間をよみとく』思文閣出版 (2019)

臥龍山荘公式サイト https://www.garyusanso.jp/



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