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庭園と著作権:希望の壁事件

更新日:5月5日

【前説】

庭園を改変することは著作権の観点からはどうなのでしょうか。そもそも庭園は著作権法が適用される「著作物」でしょうか。

ファンの人からすれば庭園は当然著作物でしょう。それは正しいのですが、実は司法が明確に判断を示したのは、2013年と比較的最近の事です。

今回は庭園の著作権について判断が示された2013年の「希望の壁事件」について解説します。


【希望の壁事件・経緯】

まず、経緯を簡単に説明しましょう。

問題の庭園は新梅田シティの屋外部分で、花野/新里山、花渦、中自然の森、列柱 (噴水)などを水路でつないだものです。全体として「水の循環」という1つの構想にもとづいており、設計者の吉村元男氏は敷地全体(建物を除く)を1つの作品と考えていました。

新里山
新里山

中自然の森
中自然の森

水路
水路

ところがこの敷地の北東部に、安藤忠雄設計の「希望の壁」という大型モニュメントができることになり、2013年に工事が始まりました。この工事を止めようとして、吉村氏は大阪地方裁判所に対して仮処分を申し立てます。ここで吉村氏が根拠としたのが同一性保持権、つまり著作物は勝手に改変されない、という権利です。


希望の壁
希望の壁

この件について大阪地裁は2013年9月6日に判断を示し、吉村氏の申し立てを退けて「希望の壁」の建設を認めました。

以上が希望の壁事件の大まかな経緯です。


【希望の壁事件・裁判所が示した論点】

後から考えると、この事件の争点は次の3つに整理できます。

(1)新梅田シティの庭園は、著作権法が適用される著作物か->Yes

(2)希望の壁を造ることは庭園の改変といえるか->Yes

(3)新梅田シティの庭園の改変は不法な改変か→No

大阪地裁は争点(1)(2)について吉田氏の主張を認めましたが、争点(3)については認めず、吉田氏の申し立てを退けました。


以下順番に見ていきましょう。

①     新梅田シティの庭園は著作物か。つまり、庭園は著作物か。

これより前に、建物と庭園を一体として著作物と認めた判例はありますが、庭園をそれだけで著作物と判断したのは希望の壁事件が初めてだそうです。

庭園が著作物であることは当然のようにも思えますが、司法が判断を示したのは案外最近でした。


②     希望の壁を造ることは改変にあたるか

庭園が著作物であれば同一性保持権 (勝手に改変されない権利) があるので、希望の壁建設が改変に当たるかどうかが次の争点となります。

希望の壁は以前からあった花渦、水路などを壊さず、これらをまたぐように造られていますが、それでも裁判所は「希望の壁」を改変と判断しました。「印象が変わる」「水の循環というコンセプトが分かりにくくなる」というのがその理由です。


③     新梅田シティの庭園の改変は不法な改変か

庭園には同一性保持権があるとしても、改変が一切認められないわけではありません。改変が許されるものか、不法なものかが次の争点になります。

この点に関して、大阪地裁は以下の事柄を指摘しました。


・新梅田シティの庭園は商業施設にある庭園であり、施設の魅力や好感度を上げ、最終的には集客につなげるべきものである

・改変を一切認めなければ地権者の土地利用権を大幅に制限し、事業の妨げとなる

・したがって地権者の権利との間で調整が必要である


その上で、建物の模様替えという改変は著作権法でも認められていることから類推して、この件での庭園の改編も認められると大阪地裁は判断しました。




【まとめ】

希望の壁事件は、庭園が著作物かどうか、庭園の改変は著作権の観点からどう判断するべきかが争点になった事件です。

この件について裁判所は、庭園がそれ自体で著作物であることを初めて認めました。同時に、地権者の利益のために庭園が改変される可能性も認めています。


鑑賞中心の解説では語られることのない「地権者の権利」という視点が示された点でも興味深い事例です。



【花野・新里山】

所在施設: 新梅田シティ

庭の性格: 緑地、公開空地

規模:約8,000平方メートル

作庭年代: 現代

設計:吉村元男

アクセス: JR大阪駅から徒歩約10分、阪神高速道路・梅田出口から車で約3分

公開状況:公開 (無料)


【希望の壁:基本情報】

所在施設: 新梅田シティ

庭の性格: モニュメント、壁面緑化

規模:高さ9m、長さ78m

作庭年代: 現代

設計:安藤忠雄

アクセス: JR大阪駅から徒歩約10分、阪神高速道路・梅田出口から車で約3分

公開状況:公開 (無料)




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