栗林公園
更新日:5月7日
「一歩にして風光相轉じ、園内到る據として各々一風景を成さざる所なく眞ら人をして徘徊去る能はざらしむ」(菊池寛)
【概要】
香川県高松市にある栗林公園(りつりんこうえん)は讃岐高松松平家が造った江戸時代の大名庭園。形式としては池泉回遊式庭園になります。池、築山、園路が複雑に絡み、さらに植栽や景物でも変化をつけているので非常に変化に富んでいます。こういったことから池泉回遊式庭園の特徴がよく表れているとされ、池泉回遊式庭園の研究に使われます。
全体は大きく南庭と北庭に分かれています。南庭は江戸時代に完成した純和風の部分で、北庭は明治の改修で完成した和洋折衷庭園です。
【栗林公園の歴史】
栗林公園は「以前からあったものを利用しながら改修する」という形で拡大改修を繰り返しています。
まず戦国時代の終わりころには地元の豪族佐藤氏による小さな庭があったようです。現在栗林公園の南西部にある「小普陀」は佐藤氏の庭の名残だという説もあります。
その後江戸時代に入って、1640年ころまでには当時この辺りを治めた生駒家によって現在の南湖あたりまで拡大されたと推測されています。生駒氏は1640年に国替えで讃岐を離れ、後に入った松平家は生駒家の庭を利用しつつ18世紀半ば過ぎまでに現在の南庭を完成させました。
そのころには現在の北庭に当たる部分も一応概形が造られたようですが、松平家の財政難のせいかあまり作り込まれず、藪や畑もありました。北庭が庭園として完成したのは明治になってからのことです。
【個人的ポイント】
[紫雲山という軸]
栗林公園は紫雲山を軸の一つとして造られています。園内には紫雲山と正対するような視点場がいくつもあります。
[松]
箱松など約1000本の仕立て松はもちろんポイントなのですが、大きく育った自然松が景色に重厚さを加えていると思います。
[園路]
南湖を一周しようとすると、路と池の間に築山が来て池を隠すような場所が4、5か所ありますが、これは室町時代の庭園、例えば鹿苑寺庭園とは大きく違うところです。このような路の設計によって、「一歩一景」と称される変化に富んだ空間がうまれます。
[掬月亭]
建築家の中村好文氏も著書『意中の建築』で取り上げた名建築。お茶代を払って建物に上がることもできます。
【歩く】
モデルコースは南庭が約1.7km、北庭が約1㎞。
南庭には一部凸凹の石畳があり、また高さ8mの山があります。路の分岐や屈曲もたくさんあります。
北庭は基本的に平ら(メインルートは平らで、行っても行かなくてもいい横路だけ起伏がある)。
南庭にしろ北庭にしろ、土むき出しの部分も多いので、靴は汚れやすいです。
【運営面でのポイント】
主要建物が普段から公開されているのは、設計時に想定した視点から見ることができるという点で貴重です。和船の乗船体験ができることも特徴。
また「芝生に入れる箇所がある」「自販機やカジュアルな飲食施設がある」など、現役の公園としての利用を想定した運用が行われています。文化財庭園であると同時に遊べる庭でもあるのがポイントです。
【旅行者向け情報】
旅行者に嬉しい点として、朝早く(夏は5時、冬でも7時)から開いているので、ほかの庭や店が開いていない時間を利用して行くこともできます。早朝に栗林公園に行くことで1日のうちに栗林公園プラス2、3カ所の庭を廻ることが可能です。
アクセスも良好です。JR高松駅と各地とを結ぶバスが栗林公園前を通り、そのバス停は東門すぐ近くにあります。さらに本州方面からの高速バスや空港からのバスも栗林公園前に停まります。東門にはコインロッカーがあるので、バスを降りて荷物を預けて栗林公園を観光し荷物を出して次の目的地に向かうことも可能です。
【余談】
上に書いた園路の話は自分で考えついて「そこに気づくとはさすが私」とちょっといい気になっていたところです。あとでわかったのですが、「路と池の間に築山が来る」ことについては『日本庭園史大系』などにすでに書かれていたので別に大発見ではありませんでした。ただ、自分で考えたということだけは微妙に誇りに思っています。
【基本情報】
・施設の性格:大名家別邸(江戸時代)→都市公園(現代)
・庭の性格:散策、饗応、鍛錬、文化活動など多目的に利用される庭
・施主:主に高松松平家歴代
・作庭家:不明
・作庭時期:主に江戸時代前期から中期
・アクセスなど:
JR高松駅から 車で約7分、徒歩なら30分
JR栗林駅から 徒歩20分
ことでん栗林公園駅から 徒歩10分
本州方面からの高速バスや、空港からのバスも東門のすぐ近くに停まる
専用駐車場(四輪用)もあるが、イベント時や行楽シーズンにはすぐ満車になる。付近のコインパーキング利用も検討のこと
二輪駐車場は駐輪場と共通で狭い。バイクの集団、または大型バイクの場合周辺の一般駐車場の方が便利。
・公開状況:公開(有料)
【Learn More】
『特別名勝 栗林公園 図録』 (2013 香川県栗林公園観光事務所等)
藤田勝重 『西嶋八兵衛と栗林公園』 復刻版 (2015年 美巧社)
羽野茂雄 『一歩一景―栗林公園を訪ねる』 (2015年 株式会社羽野編集事務所)
平井二郎監修 『栗林公園と歴代藩主 ―瀬戸の都に咲いた華』 (2022年 美巧社)
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