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香川県庁舎庭園の評価 芸術性と実用性

更新日:1月12日

【はじめに】

1958年に竣工した香川県庁舎は、丹下健三の代表作の1つとされます。丹下研究室の神谷宏治氏が設計した南庭も、庭園の世界ではよく知られたものです。

本記事では、香川県庁舎南庭の特徴と評価を、「造形」「象徴性」「実用」の面から見て木行きましょう。


【造形】

南庭の造形は、モダニズム建築との調和が高く評価されています。

「鉄骨鉄筋コンクリート造りの近代ビルにどんな庭園がにつかわしいかという難問に対する見事な解答の実例の一つである。よほどの広がりでもない限り、かぼそい植木や芝生だけでは位負けしてしまうし、従来の自然風景的石組にこだわると、建築のもつ強い線や立面とは融合しにくい。方池に建築的な橋を架け、水中に人巧でかいた石を置いたねらいは抜群である」森蘊


彫刻的な石組
彫刻的な石組

「自然風景式」でない石組の例は建物正面、池の中にあります。この大きな立石(池底からの高さ約5m)について、設計者の神谷宏治氏は「彫刻的なもの」を意図したとも、「力強い縄文的な要素」を取り入れたとも語っています。

当初案でこの位置にあったのは平らな中島でしたが、神谷氏は香川の田園地帯で見かけた「豊穣のシンボル」(婉曲表現)に着想を得てこのような石を立てるプランに修正したそうです。


香川県埋蔵文化財センター研究紀要Ⅶ

「香川県庁舎」に極まるもの



【コンセプトと象徴性】

庭園を芸術として見る場合には、コンセプトや象徴性も評価対象になるでしょう。

建築、ピロティ、庭園が一体として設計され、県民のための庁舎というコンセプトで統合されている点は評価ポイントです。


庁舎を設計した丹下は、ピロティと庭について、竣工式で次のように語りました。

「この建物の下は、柱だけで何もない広場になっています。私はこの広場が県民のための広場であると考えたいし、またそうであることを希望して設計して参りました。また、その広場に繋がる庭も、県民の庭であると私どもは希望しています。」

香川県庁舎ピロティ
香川県庁舎ピロティ

もう1つ指摘しておきたいのは土着性、あるいは郷土愛です。

神谷氏の証言によれば庭の南部にある人工の山は讃岐の山だとのこと。


「神谷|知事さんと飲みながらいろいろ相談していると、イメージしているのはやっぱり緑豊かな香川の山並みや屋島なんですね」

(LIXIL eye 2013年4月号)

人工の山と自然の山
人工の山と自然の山

この築山は屋島を模したものだという証言がありますが、このように上部が平らな山は屋島に限らず香川県各地にあります(背後に写っている山もそうです)。


【実用】

最初期から、この庭は見るだけの庭ではなく人が入る庭であることが丹下研究室では共有されていました。庭の発注もされていないときに書いてみただけのプレ案(1955年)の図にも、広場と通路らしきものが描かれています。

その後1957年になって庭の設計が本格化したようです(佐藤竜馬「香川県庁舎南庭の基礎的考察」による)。ここで設計の中心となった神谷氏は後にこう語っています。


「庭園は400坪足らずのものであるがこれは単に建物を飾るための庭ではない、また眺めるだけの庭でもない。むしろ私たちの意図は、人々がそこに集まるための庭であり、広場でありたいというところにあった」

「この小さな高台の平土間は、時には演台に使われ、展望台となり、時には盆踊りのやぐら代わりになるだろう」


実際にできた庭園には広場があり、石のテーブルがあり、完成当初には陶器製のスツールもあるなど、実用のためのものでした。神谷氏が1959年に雑誌に書いた文章によると、一時期はこの庭でたびたびコンサートが開かれたそうです。


【現状はどうなのか:筆者が見た香川県庁舎南庭】

ではこの庭の現在はどうなのでしょうか。筆者は2024年11月にこの庭を訪問しました。現地で確認できたのは、この庭が開放的で入りやすいこと、建築を見るための場所として好まれているということです。

県庁のすぐ南に小学校があるのですが、下校中の小学生がピロティにあるベンチで荷物整理か何かする姿が見られました。また、筆者がいた1時間の間に、外国人観光客らしき人を含む10人弱が東側のピロティから庭に入りました。

このように入りやすい庭になっていることは設計の意図通りです。


一方で設計者の思惑通りにはならなかった点もあります。各SNSや香川県公式サイトを見る限りここでイベントが行われることはまれで、「人々がそこに集まるための庭」とは言えません。

ここで筆者の頭に浮かんだのは、同じ丹下研究室がずっと後になって設計した東京都庁です。都庁では平坦なイベント広場とそれを囲う店舗という形で「集まるための庭」を実現し、「開かれた庁舎」につなげています。


もう1つ気になったのは石のテーブルのようなものです。広場にぽつんと置かれていますが、隅に寄せて背後を壁にするなりバーゴラで日陰を作るなりしたい気がします。

石のテーブル
石のテーブル

【Learn more】

・丹下健三生誕100周年プロジェクト 神谷宏治・藤森照信・林幸稔講演会 「建築のみらい」「香川県庁舎」に極まるもの

・LIXIL ビジネス情報 | LIXIL eye No.2(2013年4月) | 情報誌LIXIL eye | 建築・設計関連コラム

・『香川県庁舎1958』 (2014年 香川県庁舎50周年プロジェクトチーム)


【基本情報】

所在施設: 香川県庁

所在施設の性格: 自治体の庁舎

庭の性格: 中庭、前庭? 都市の広場

作庭年代: 現代

公開状況:公開 無料

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